※過去にICCで実施した”グローバル人材・インタビュー”の記事を採録します。名称や肩書等は当時のものです。(元記事は2011年12月19日公開)

国連広報センター(UNIC東京)所長
山下 真理

1990年、政務官補佐として国連に加わる。政治局において選挙支援やアフリカ南部、東南アジア地域などを担当。クロアチアPKOで国連次席選挙事務官、国連ネパール・ミッションで政務室長を歴任。2010年7月から現職。

 

国連という仕事場がオプションとしてあるということ

国連で働きたいと思ったきっかけは何ですか。

一番大きな理由は、私の生い立ちだと思います。家庭が国際的な環境にあったので、日本で生まれましたが、3歳から小学校2年生まではドイツで教育を受けました。自分の人間形成の過程で自然に外に目が向いたのだと思います。中学生高学年の頃再びドイツに住み、インドのドイツ人学校に通いました。しかし、日本の大学に入りたいと思っていたので、そのためにも日本の高校に入学する必要があると考えて帰国しました。その時期に国連という舞台があることを知って、もしかして自分に合うのは国連かなと考えていました。自分に合う職場は何だろうと、そして自分のバックグランドに合うところはどこだろうと考えたときに、自然と国連が自分にマッチしました。

どのような学生時代を送っていましたか。

私は上智大学法学部国際関係法学科を卒業しました。国連についてもっと知りたかったので、当時は国際機構論や組織論など限られた授業しかない中、国連に関係する授業は一通りとりました。大学のゼミがとても厳しかったのですが、英語の文献をたくさん読み、英語力はとても鍛えられましたね。また、国際関係の学生団体にも所属していました。そこで国際会議を開いたり、留学生と国際交流をしたりしていました。そして大学3年生のとき、当時上智大学で教鞭を執られていた緒方貞子先生のもとで、日本でも模擬国連を組織化しようという動きがありました。私は「自分が探していたものはこれだ!」と思って、大学時代最後の一年は模擬国連にかなり没頭しました。今は模擬国連というと全国的に広まっていますけど、当時はいくつかの大学にしかありませんでした。そういえば早稲田の学生も多かったのですよ。今でも一番仲のよい友達はそのときに知り合いましたね。

その後国連で働き始めた経緯を教えてください。

私は、これをよく言うんですけど、おうし座なんですよ。おうし座は突進型で、本当にあの当時は突っ走っていましたね。大学院はやはり語学と専門性のために 絶対に行こうと思っていました。大学院を卒業するときに、たまたま国連競争試験があったので、受験するしかないと思いました。それで合格をいただいて、か なり珍しいケースではありますが、大学院卒業後にすぐに国連で働き始めました。今は状況もかなり違うし、私のようなケースで国連に入れることはまずないと 思うので、非常にラッキーだったと思います。大学院1、2年生のころにインターンをやっていましたが、そのオフィスにちょうど空席が出たのと、専門の政治 で試験を受けられたというのも偶然でした。そういうことが重なって国連に入ることになりました。

強い信念とグローバルな意識を持つということ

国連で実際に働くようになって、働く前と比べて国連に対するイメージが変わったところはありましたか。

学生として勉強していた国連はどうしても論理的な内容が多かったし、仕事をする場としては想像もつきませんでした。実際に入ってみると国連というのはすごく大きな組織で、とにかく世界規模でものを動かしているシステムだということがわかりました。その国連に携わることができるというのは、私にとってとてもエキサイティングなことでした。ビルに入っただけで、当時はすごくわくわくしていましたね。国連は国際ニュースのヘッドラインになるようなことに必ず関わってくるし、そういう実感は湧いてきましたね。自分に合っているなあとも思いました。あと職場ですが、職場はやはり人が作る雰囲気ですよね。色々な国の人が集まっているので、人種も宗教ももちろん違いますが、それが普通という感じです。あとはやはりチームベースで働いているので、お互いのことをよく知っています。日本の会社ではあまりないかもしれませんが、家族ぐるみで付き合ったりすることが多いですよ。すごく人間的な職場だと思います。

国連で長いキャリアを積んでいらっしゃいますが、国連での仕事を続けてこられた理由は何ですか。国連ならではの仕事の難しさはありますか。

やはり国連の理念に強く賛同しているところでしょうか。それだけではなく、その理念に直接関わることができるということ、それが自分の原動力になっていま す。いつも意識していることは、国連を通して世界に携わるということは貴重な機会であること、そして国連の仕事に携われることがとても光栄であることで す。あとはやはり「自分に合った職場」であるということが大きいですね。それから、国連の仕事というのは、私が携わっていた選挙支援はまだしも、その多く はすぐに結果が出るものではありません。「国連は結局、何をしているんだ」ということをよく言われますが、結果が出ていない中で対外的に説明をしないとい けないというのは大変なことなんです。時間がかかるということは、信じて動かないと継続できないということでもあるのです。

女性だからこそ国際社会に貢献できることは何だと思いますか。

国連は女性にとって働きやすい職場だと思います。私がニューヨークにいたときは、在宅勤務制度も導入され、様々なフレキシブルなオプションがあります。で も、女性の地位がまだまだ平等ではないところはたくさんあります。特に若い女性が国連を代表して政府代表や現地のリーダーと交渉をしたりする場合、それに 抵抗を感じる人も沢山います。そういう時は自分の専門性に自信を持つことが大事です。それから自分に託されたものは何か、その時々の自分が置かれている状 況は何か、ということをきちんと理解することが必要です。「人生いつまでも勉強」というのは本当にそのとおりです。世の中はどんどん変わっていますから、 常に情報をアップデートするための勉強が必要です。あとは中身で勝負ですよね。そこは女性も男性も変わらないと思います。どうやって話をするかとか、相手 がどういう文化的背景から来ているのかを理解するとか、そこはセンシティブに対応しないといけないですね。女性やアジア人には、そういう気配りがあるよう な気がします。

外に目を向けるということ

国連で働くために、求められる能力は何だとお考えですか。

語学力というよりは、まずコミュニケーション力が抜群でないとだめですね。これは間違いないです。そのうえで、コミュニケーションを何語でするかが問題な んです。まず英語で抜群のコミュニケーション力をつけないといけない。英語圏で生まれた人以外はみんな訓練ですよ。ひたすら訓練です。ここで言うコミュニ ケーション力はいろいろあると思います。もちろん話す能力、自分の意思を伝える能力、分析したものをプレゼンテーションする能力は必要です。とにかく伝え たいことをいかに簡潔に分かりやすく伝えるか、論理性がどれだけ通っているのかというのも大事です。それ以上に大事なのは聴く能力ですね。特に国連の様に 多文化な環境では、まさに相手の立場を理解するために聴く能力も抜群でないといけない。聴くだけじゃなくて理解もしなきゃいけないのが難しいんです。どん なにオープンマインドでいようと思っていても、やはり無意識に自分の中に入っているものがあるんですよね。自分にとって常識であるものが世界で必ずしも常 識じゃない、そしてすべての人が共有しているわけではない、ということを認識する。そういう姿勢が大事です。

 

現在はどういったお仕事をされていますか。

国連の広報センターというのは実は歴史が古くて、PKOよりも古いんですよ。世界中に今67カ所ありますが、東京の国連広報センターは1958年に設置さ れたのですよ。それでその国において国連の広報活動をすると。日本では日本語で国連の活動を紹介するというのが大きな役割です。色々な形で広報するのです が、一つは公式文書翻訳。決議とか国連の報告書など、重要性の高いものから優先順位を決めて翻訳します。なるべく多くのものを日本語で読めるようにするの が一つですね。これは日本の政府も重要視していることです。もう一つはアウトリーチと言うんですけれども、啓蒙活動を含め、イベントや講演、執筆等を通し て広報活動をします。それに加え最近私たちが挑戦しているのがソーシャルメディアで、facebookやツイッターをなるべく取り入れています。これから は、ソーシャルメディアに一層力を入れていきたいと思っています。

今の大学生は内向きだと言われていますが、その点に関してはどのようにお考えですか。

私は去年の夏に、日本に22年ぶりに帰ってきました。そのとき、何で日本と日本人はこんなに自信喪失しているんだろうとショックを受けました。戦後からの 急成長、素晴らしい技術力、安全で平和な国、それが世界から見た日本のイメージです。もっと身近なもので言えば、モノカルチャーや食文化、日本を世界に自 慢できることは数え上げたらきりがありません。アフリカに行ったときなどは、日本から来たと言うと、尊敬と期待の目で見られましたよ。日本というブランド はすごくポジティブなんです。そういうことを私は20年間当然なこととして海外で生活してきました。それが帰ってきたら日本がしょぼんとしていて本当に驚 きました。最近は講演する度に、そうじゃないですよということをできるだけ伝えています。日本の学生についても大いに期待しています。数は少ないかもしれ ませんが、国連や国際社会などに興味を持っている学生は必ずいます。そういう人たちを大事にしないといけないなぁと。興味があってポテンシャルがある人た ちに道が開かれるような、そういうシステムを維持しないといけないと思います。

最後に、国連など国際社会で活躍したいと考えている学生に、メッセージをお願いします。

                                                   国連広報センターオフィスにて

夢を大きく持つことはとても大事です。まず、夢を持つことが学生の特権なので、ぜひ大きな夢を持っていただきたいと思いますね。そして、みなさんにぜひ国連に目を向けていただきたいです。職場のオプションとして国連があるということを、常に考えてほしいです。日本人職員は、私が入った20年前も今も同じくらい少なく、日本人はいつでも歓迎されています。日本人が国連に関わることを世界は求めています。自分の専門分野でグローバルに関わっていきたいと思う人にとって、国連はとても良い職場だと思います。ぜひ志を強く持ってほしいですね。学生だと先が見えないし、不安があると思いますが、私も同じ悩みを持っていました。本当に国連で働けるのか、と。でも、悩みを持ちながらも追求する情熱と力さえあれば、これは必ず実現できる夢なので、諦めないで頑張ってもらいたいと思います。

国連広報センター
http://unic.or.jp/index.php

編集後記

インタビュー中も笑顔の絶えない山下所長でしたが、話の節々に国連に対する強い思いが感じ取れました。「自信を持つこと」という力強いお言葉に背中 を押された気がしました。国連に対する憧れはあるもののやはりどこか遠い存在でしたが、今回のインタビューを通して、国連で働くことはいろんな関わり方が あるということを知りました。様々な分野から異なったバックグラウンドを持った人たちの集まりである国連はまさに世界の縮図のような気がしました。この記 事を読んでくださった皆さんも国連を身近に感じていただければ嬉しいです。

陸 欣(国際教養学部4年)